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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)265号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨並びに本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決を取り消すべき事由として、原告の主張するところは、本願発明は、比較的長い分離槽を用い、粗粒化帯上部に傾斜板を設け、粗粒化帯より下部に加圧又は相当の水頭を持つて供給される原水仕込管を備える構成により傾斜板を取り付けるための垂直距離増し分の水の高さに相当する水圧並びに傾斜板の摩擦損失による分の水頭に相当する水圧を受け、そのため廃水中の固体粒子の粗粒化材表面への吸着凝集の効果が大となつて沈降するのに対し、引用例記載の発明には傾斜板がなく、本願発明の右のような効果を生じない、というにある。よつて、この点を検討するに、前記本願発明の要旨に成立に争いのない甲第三号証(本願発明の願書並びに添附の明細書及び図面)及び第七号証(手続補正書)を総合すると、本願発明は、見掛比重が一以下であるが、真比重が一以上の沈降又は浮上することのない微細な固体粒子を含んでいる原水(例えば、工場廃水)を浄化するための装置に関するものであるところ、従来この種固体粒子を除去する方法として、適当な凝集剤を使用し、著しく長い時間放置することにより固体を沈澱又は浮上させる方法か、ろ過による方法以外に適当な方法がなく、この従来の方法中前者の方法は廃水を長時間貯めるための広大な設備面積を要し、著しく非能率であり、そのうえにそのまま放出することができる程度まで浄化することがほとんど不可能であり、また、凝集剤による二次的な汚染のおそれがあり、後者の方法は、設備費及び運転経費が高価である等の欠点を免れなかつたが、本願発明は、この従来方法の欠点を解決することを課題とし、本願発明の要旨のとおりの構成(本願発明の明細書の特許請求の範囲の項の記載と同じ。)を採用したものであり、これによるときは、「原水(廃水)が粗粒化帯を通過するとき、これに懸濁している固体粒子は、粗粒化材の表面に吸着凝集して周囲の水圧により圧縮され、漸次密度を増し終には粗粒化材を包含したままでの比重が一より大となり沈降する様になる。本発明の装置では原水を粗粒化帯中を上昇させるために、粗粒化帯の下端に存在する粗粒化材が最も早く粒子を捕捉するので、最下端の粗粒化材から沈降しはじめるので、粗粒化材は互いに妨害し合うこともなく固体が多く凝集した粗粒化材から逐次に沈降」(明細書第七頁第五行ないし第一五行)し、廃水から不純物である固体粒子を分離する作用効果を奏するほか、分離槽を塔状の半地下式又は地上式の比較的細長いものとしたため、設置面積を著しく狭くし、かつ、比重一以下のプラスチツク材料の粗粒化材の効果と相まつて設置単位面積当りの処理能力を増大させ、粗粒化材としてプラスチツク材料(殊に非結晶性ポリプロピレン)を使用するため、粗粒化材表面に吸着されて生成するスラツジをそのままで焼却することができ、また、これを土中に埋没しても二次公害を発生させるおそれがなく、更に、廃水中に油状物粒子が共存する場合でも粗粒化材に捕捉されるので、油状物除去のための別個の処理を必要としない等の作用効果を挙げ得ることを認めることができる。一方、引用例に本件審決認定のとおりの内容の発明の記載があることは、原告の自認するところ、右事実に成立に争いのない甲第四号証(引用例)を総合すると、引用例の発明は、有害な不純物を含む廃水を処理することにより、公害問題の一つを解決し得る上昇式ろ過器のろ過部材に関する発明であるところ、その構成は、有害な不純物を含む廃水をろ過タンク(塔型分離槽)の下底より導入し、同タンクの上方よりろ過された処理水を排出するようにした上昇式ろ過器において、ろ過タンクの最上部に油用吸着剤を適当量充納した透水性のバツグを設け、その下にネツトを張設し、タンクの下底よりある距離を隔ててタンクの横断面全面にわたつて比重一以下の合成樹脂材料等(プラスチツク等)から形成された粒状の材料(ろ過素子)を、廃水処理中には右ろ過素子がその浮力により右ネツト下面に分離可能に密集せしめられるように設け、このろ過素子群(ろ過部材)にろ過性能を附与すべくなしたことを特徴とするもの(別紙図面(二)参照)であつて、右構成により、「ろ過素子7のうち、下面に属するものに不純物が附着して、目詰り状態を発生しても、当該素子の比重が不純物のため廃水Wより大きくなり、上方のろ過素子群の下面より沈降する。……このため、ろ過体の下面は自動的に清掃されて、そのろ過能力が常に新鮮に賦活される」(引用例二頁下欄左側第六行ないし第一二行)効果等を奏することを認めることができる。

右認定の事実に基づき本願発明と引用例記載の発明とを対比するに、本願発明の半地下式比重差分離装置と引用例記載の発明のろ過器とは、共に、分離槽の縦軸がほぼ垂直に設置されている比較的細長い分離槽と、分離槽の槽底よりある距離を隔てて槽の横断面全面にわたつて設置されている比重一以下のプラスチツク材料の粗粒化材(引用例記載の発明では、ろ過素子)を充填して形成された粗粒化帯(引用例記載の発明ではろ過部材)と、粗粒化帯より下部に開口している加圧されて供給される原水仕込管と、分離頂部に設けられている浄化水の排出管とを備えるものであり、また、共に、工場排水等の廃水を原水仕込管から加圧のもとに供給し、粗粒化帯(ろ過部材)を上昇通過させて浄化し、槽頂部の排出管から排出させる方法を採つて、廃水の浄化に使用するものであり、また、引用例記載の発明のろ過素子は、本願発明における粗粒化材と同様に、廃水中の不純物たる固体粒子が吸着凝集し漸次密度を増し、ろ過素子の比重が廃水の比重より大きくなつて沈降するものであることを認めることができるから、引用例記載の発明のろ過素子は、本願発明の粗粒化材とその作用効果を同じくするものと認めるのが相当であり、本願発明と引用例記載の発明とは、廃水中の不純物たる固体粒子を分離することについての技術的構成ないし技術的思想を同じくするものということができる。もつとも、本願発明の備える傾斜板を引用例記載の発明が備えていないことは、当事者間に争いのないところであるが、前掲甲第三、第七号証によれば、本願発明の明細書には、傾斜板に関しては、前示のとおり特許請求の範囲に「(3)粗粒化帯より上部に任意の数具える傾斜板」と記載されているほかは、その発明の詳細な説明の項に、「粗粒化帯より上部に任意数の傾斜板(じやま板)4を設置することもできる。」(明細書第七頁第一行及び第二行)と記載され、図面に傾斜板が図示されているのみで、傾斜板の果たす作用効果については、全く記載するところがない。のみならず、原告が主張する傾斜板を具えることによる水圧の増加とこれによる効果、すなわち、(1)傾斜板取付けにより、その取付分の水の高さに相当する水圧の増加及び(2)傾斜板の摩擦損失による分の水頭に相当する水圧の増加並びに右水圧増加による効果についても、右(1)の水圧の増加については、粗粒化材にかかる水圧の増加は、傾斜板を備えること自体によるものではなく、分離槽の粗粒化帯の上方の部分の長さによるものというべきであり(この点については、本願発明と引用例記載の発明との間に格別の差異があるものといい得ないことは、前認定の両者の構成から明らかである。)、また、右(2)の水圧の増加については、分離槽中を上昇する廃水の速さは、前掲甲第三号証によると、一般には毎分〇・五メートル程度(本願発明の明細書第九頁第七行参照)の緩やかなものと認められ、したがつて、水流が傾斜板に衝突することによつて生ずる水圧の増加はほとんど考えられないところであるし、引用例記載の発明においても前認定のとおりろ過部材の上方に透水性のバツグが設けられており、これによつて摩擦損失に基づく水圧の増加を生じるものと考えることができるから、傾斜板を備えることにより本願発明の作用効果が前認定の引用例記載の発明の作用効果に比べ格別に差異があるものとは、到底認めることができない。

以上認定したところによれば、原告の主張は理由がないものというほかなく、本願発明をもつて引用例記載の発明及び周知技術から容易に発明することができたものであるとした本件審決の認定判断は相当というべきである。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

(1) 槽の縦軸がほぼ垂直に地中に埋没或いは地上に設置せられている比較的細長い分離槽と、

(2) 上記分離槽の槽底より或る距離をへだてて槽の横断面全面にわたつて設置されている比重一以下のプラスチツク材料の粗粒化材を充填して形成された全分離装置の主体となつている吸着による分離を行なう粗粒化帯と、

(3) 粗粒化帯より上部に任意の数具える傾斜板

(4) 粗粒化帯より下部に開口している加圧又は相当の水頭を持つて供給される原水仕込管と、

(5) 粗粒化帯に粗粒化材を補給するための粗粒化材補給管と、

(6) 分離槽頂部に設けられている浄化水の排出管、ならびに

(7) 分離槽底に近接して開口している沈降したスラツジの抜出管からなり、装置内のゆるやかな垂直流中で分離する様にしたことを特徴とする半地下式比重差分離装置。

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

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